検診の受診者は腫瘍マーカーを誤解していることが多く、医療者は注意が必要

がんの存在、部位、種類、進行度など、がんの状態を知る指標となる「腫瘍マーカー」は、がん検診などで補助診断を目的として行われています。腫瘍マーカーの異常はがんの存在を示唆することもありますが、他の良性疾患等でも上昇を示すことがあるため、腫瘍マーカー単独でがんの診断をつけることはありません。

医療者は患者への正しい説明が必要

しかし、検診の受診者は「異常値=がん」と誤解しているケースが非常に多いため、十分な説明を行っていないと、不安と混乱を招くだけの結果になりかねません。

検診項目として有効とされる腫瘍マーカーとしては、乳幼児検診のVMA/HVA測定による神経芽細胞腫の早期発見、PSA(前立腺特異抗原)による前立腺がんの早期発見があります。また、肝炎ウイルス検査は肝臓がんのハイリスク群の選別に有効性があります。

CA125と超音波検査による卵巣がん検診、ペプシノーゲンによる胃がん検診、HPV(ヒトパピローマウイルス)感染検査による子宮がん検診は、死亡率低下に結びつくかどどうか、その有効性はまだ確認されていません。

検診では限られた受診機会を最大限に活かすため、問診、診察に続いて、生化学検査、画像検査など複数の検査が同時に行われます。検診で腫瘍マーカー検査を行ううえで重要なのは、この並行検査の利点を活用し、問診と診察で得られた情報を踏まえて、他の検査所見を利用することにより、単独検査に比べて多くの情報を得られることにあります。これにより、腫瘍マーカー検査の陽性予測値を高めたり、偽陽性となる良性疾患の存在を明らかにすることができます。

腫瘍マーカーの数値をどのように解釈するかはがんのリスクによって異なります。スクリーニング対象とするがんのリスクが高い場合、検査結果が陽性の場合にがんと診断できる確率が高まる一方、がんのリスクが低い場合、腫瘍マーカーが上昇してもがんが存在する可能性は低く、良性疾患等による偽陽性の可能性が高くなります。

AFPによる肝臓がんのスクリーニングは、C型肝炎ウイルス抗体陽性など肝炎ウイルスキャリア、トランスアミラーゼ上昇、たんぱく分画異常など慢性肝臓疾患を示唆する検査所見、肝臓がんの家族歴などのリスク要因がある場合、その有用性は高くなります。

AFP上昇で発見が可能な肝がんは全体の約半数となっており、その多くは進行がんです。進行がんでも約15%はAFPの数値は正常を示すため、肝炎ウイルスキャリアでは、数値が正常範囲であっても超音波検査やCTなどの画像検査を定期的に行う必要があります。

CEAは感度、特異度が低いため、スクリーニングや早期診断には適していません。大腸がんのスクリーニングには、大腸の症状、特に直腸出血、便通異常や腹部腫瘤などを疑わせる症状や身体所見の有無、便潜血検査が有効とされています。

腫瘍マーカーの数値は、組織の炎症や肝臓・腎機能障害、糖尿病などの代謝・排泄の変化によっても上昇します。CEAの軽度上昇は慢性肝炎、肝硬変、胆道炎、気管支炎などの慢性炎症性疾患でも見られます。CA19-9の上昇は膵炎、胆管炎、肝炎などの慢性炎症性疾患で見られます。AFPは、慢性肝炎や肝硬変など慢性肝臓疾患でも上昇します。CA125は卵巣がんのほか、良性卵巣腫瘍、チョコレート嚢胞、内膜症、子宮筋腫でも数値が上昇を示します。

数値が高度に上昇した場合は進行がんの存在を考慮して画像検査の所見を確認する必要があります。CEAの高度上昇は、大腸がん、胃がん、食道がんの有無を消化管造影検査または内視鏡検査で確認します。膵臓がん、痰童顔、肺がんの有無を超音波検査やCT検査などの所見で確認します。女性では乳腺、婦人科系のがんの精査を行います。

AFP上昇では、肝臓がんや胎児性がんの有無を画像検査で確認します。CA125の上昇では、卵巣がんの存在を考えて、経膣超音波検査、CT検査を行います。PSA上昇では、年齢ごとの基準値を参考にして、前立腺がんの存在を考え、経直腸前立腺超音波検査、CT検査、前立腺生検を実施します。

悪性腫瘍が確認できない場合、1ヵ月後に腫瘍マーカーの再検査を行いその推移を見ます。原因不明の上昇が続く場合には悪性腫瘍の見落としが疑われます。